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座卓屋本家オヤジのドキュメンタリーレポート

座卓屋本家オヤジのドキュメンタリーレポート

こたつテーブルとは直接関係はありません。
座卓屋本家オヤジの実際にあった出来事に基づくレポートであります。

 
 

事件簿:聖人名医

私もこの世には人知を超えた何か特別なものが存在することを信じる者のひとりであり、少ないながら、いくつかの不思議な体験も持っている。しかし、人から聞く話として、そして、信憑性の高いものとして、特筆しておきたいのが、当地で親しくなったある工場の社長の体験談である。

その社長は以前より脚の膝関節に故障を持っており、日本にいた時より、「こりゃ一生の付き合いになるな」と完治しない膝のことを、もう大分前に諦めていたそうな。

当地に赴任してからも、しばしば、痛みを発する膝に、もう愛想を付きかねていた。とその時、ローカルスタッフが薦めるには

「ここには何でも直せる聖人のような人がいますから、一度看て貰ったらイイ!」

ご本人は、「いつも適当なことを言っていい加減な!」と半ば苛正しく感じたが、「どっちみち直らなくても元々」と、少しの好奇心から、その聖人に膝を看て貰うことに決めたのである。

数日後、思ったより田舎に入り込んでいく車の中で、いくらか不安な気持ちになりながら、長い道中を、揺れに任せていた。いい加減飽きた頃に、現地に到着。予想以上貧困そうな部落の中に立っていた。

スタッフの案内で、その聖人に挨拶しかける間、ともかく、治療室に入れと言われ、治療室なのか豚小屋なのか判別の効かぬ小屋に潜り込むこととなった。

「うっ」

当地の生活が決して短くないこの社長ですら、抵抗感に不安の声を上げた。ハリポタに出てきそうな、絵に描いたような魔術師の仕事場。文字通りの怪しげな部屋に通され、得たいの知れない生き物の標本、何かの臓器のようなものが浮かんだビーカー、古ぼけた調理器具のような器物などなど。

「誤ったか!?」と思いながら、時既に遅し、言われるまま、小さな診察ベッドに横たわった。

その聖人と呼ばれる老人は、介抱するように社長の膝を調べ、何事かローカル訛りの強い独り言をもらしながら、あちらへこちらへと忙しげに歩き回っている。見ていると、やはり、不気味なものが並べられたテーブルの中から、正体不明の粉やら、固形物やらを一つの容器に放り込みながら、今は卵を割り入れ始めた。

聖人の割る卵をひとつ、ふたつと横目でみながら、6個までを数えた瞬間に社長は声を上げざるを得なかった。</p><p>「もうそのくらいで十分だから!」

俺は、ヘビー級の王座を狙っていたロッキーほど栄養を取る必要はない!と社長が思ったかどうかは判らないが、聖人は社長の声に反応し、にこにこしながら、もうひとつ追加で割り入れた。

そして、その容器に入ったものを、「カチャカチャ」混ぜ合わせ、近寄って来る聖人を見つめながら、まさかそれを飲めっとは言うまいな、と一縷の希望を抱いたものの、黙って差し出されたビーカーを見つめながら、「今まで楽しかったな~」と思う必要もない言葉が脳裏に浮かんだそうだ。

毒殺するには、手が込んでいるな!と、やけっぱちになりながら、その何かを、味わうことなく一気に飲み干した。
聖人は、相変わらず、にこにこしながら、また膝を介抱し始めた。

「30分ほどここで寝てよ」

そう言い置いて、聖人は部屋から出て行った。
横になりながら、社長は思っていた。

「いっそ、このまま飛んで帰るか!」
「いや待てよ、はぎ取ろうとするなら、とっくにやられているはずだし、見たところは非常に友好的だ。効果などはあるまいが、田舎医者であることは間違いなさそうだ」
「何を馬鹿なことを言うか、油断する隙を狙うために外に出て行ったんだろう」
「しかし、なぜこんなに時間を掛ける必要があるのだ。やるなら、俺一人。5人ほど一緒に束になって来られたらどの道助かる見込みなどない。すぐやれるさ」

ひとり自分と対話をしているとあっという間に時間が経過し、聖人が戻って来た。何をもたもたしてやがるんだと自分を罵りながら、聖人を見つめていた。

聖人はまた膝を看て、すぐに言い放った。

「あんた、もうエエよ。立ってごらん」

何を言ってやがると、ともかく起き上がりながら、感じた。

「あれっ?」

今まで足枷をされていたように重かった自分の脚が、とてつもなく軽くなっているのだ。そして、立ち上がり、少し歩き回ってみた。

「あれれっ?」

何故か、新品と取り替えたように脚が良くなっている。鈍い痛みが、ずーっと残っていたはずなのに、痛くないのである。そんなバカな、と飛んで見たが、痛くない。お決まりだが、最後にはスキップをし始めた。が、痛くない!

「ありがとうございました。お父さん!」

過去何十年もの間、この社長は、言うことを効かぬ自分の膝をごまかしながらなだめ続けてきた。しかし、この日以来、彼は今まで何事もなかったように、改めて闊歩し始めることになった。

 

こんな話し、あなたは信じるだろうか?少なくとも、私は、この世には人知を超えた何か特別なものが存在することを信じる者のひとりである。

 

事件簿:力を持つ剣

その年、インドネシアは9月18日からハリラヤに入りました。ムスリムの正月なのです。未明からお祈りの声があちらこちらで高唱され、出会えば、親しい者同士は、正月特有の挨拶を取り交わします。皆普段より着飾り、会う人会う人は一様にして微笑み、一年でもっとも穏やかな時期に入ったことが良く判るのです。
しかし、今回記すのは、ムスリム正月のことではなく、例によって奇妙な話を仕入れたので、忘れない内に記録しておきたいがためです。

私も、当地にお世話になるようになってから久しくなりました。今ではローカルの、友と言って憚らない人物も何人かできたもんです。利害関係だけでなく、困った時には助け合うことができる人間関係ということです。その中に、故郷をクディリに持つ者がいる。ハリラヤと言うことで、お互い久しぶりに会うことにあいなりました。挨拶もそこそこに、前向きの彼は、早速、次の12月の予定について話し始めたのです。

「今年のクディリの刀剣のフェスディバルは12月に開催される。どうや、お前も一緒に来ぬか?」
「刀剣の?そりゃ、オモロそうやんか!」
いい年をして、アーミーオタクであることを密やかな誇りにしているため、反応は早いです。
「ところで、その刀剣のフェスティバルちゅうのは、一体どういうモノ何や?」

「クディリだけでなく、方々から伝統的刀剣を大切にする人々が参集し、一種のお披露目をするんや。オイのおばさんも参加する。番(つがい)のクリスを持っているからの」
「クリス?」
「突くための剣や。日本の刀のように刃がついたものは、プダンというて、種類が異なる。参加するのはクリスが大半やろな」
「番(つがい)ちゅうことは、剣にもめおと(夫婦)があるのかいな?」
「そうや、みんな番(つがい)の剣を持ち寄るんじゃ」

この会話だけなら、誰でも、どこにでもあるような伝統的なパレードを想像するでしょう。「奇妙に」なってくるのは、この後の会話からなのです。

「あんたが興味あるんなら、どや、そのフェスティバルに行く前に、内のおばさんのところで、まずそのクリスと話してみるか?」
「そりゃ、間近で手に取って見れるんなら、その方がなおエエがな」
「手に取れるかどうかは、クリス次第じゃけど、何か聞いてみたいことアルか?」

「話してみる」というのは、「間近で見れる」ということを意味するのだろうと、勝手に解釈していたものの、「聞いてみたいこと」と続けられて、既に解釈が正しくないことが判りました。

「聞く?って、そのクリスにモノを尋ねるちゅうことか?」
「そうや、けど、クリスは実際には会話はできないからの。YESかNOで答えられる質問でないとアカンぞ」
「ほ~。そういうもんかいな」

ほ~れ出たぞ出たぞと、くわしく聞きたくなる訳です。

「実は、オイのいとこが、おばさんのクリスをえらく欲しがってな。1年ほど前にそのクリスを持って帰ったんじゃが、三月ほど前にクリスは自分でおばさんの家に帰って来よったんよ」
「ほぉ~」
「悲しいことに、そのいとこのとこの息子は、クリスが帰ってきた数日後に、事故でなくなったんやんか。みんな知ってるのはな、そのクリスを持ち帰った日から、すぐ奥さんも病気で亡くなったから、よっぽど、いとこのとこが嫌やったんちゃうかの」
「何じゃ?そのクリスの仕業ちゅうことか?」
「そういうことをはっきり言ってはイカンのや。ただ、嫌やったんかな、ちゅうとるんや」

「口にしてはいけない名前の人」というのが、最近、衆目を集めているため、期せずして、なるほどと合点する次第であります。

「オイの姉貴のダンナは、有名なホテルの仕入担当をしてるんやけど、彼はアンティークなもんちゅうか、力を持つ古物を集める趣味、いや、商売をしているんやな。そいで、彼も前からそのクリスを所望していてな。おばさんが、クリスに直接聞いてご覧、ちゅうとった。そいで、彼が、そのクリスを手に取ろうとするんやけど、彼はそのクリスを持ち上げることはできんかったんや。まるで、箱にくっついて離れないみたいにな」
「(沈黙)」
「日本にもサムライがたくさんおったらしいからの、クリスじゃなかろうが、そういうプダンがあるんやろ?」
「(沈黙)」
「どうなんや?」

知りうる限りの見聞きしたことを動員するものの、やはり「ハリーポッター」の何巻目だったかの、うら覚えの内容を引用するしかないと、はかない面持ちで返すしかありません。

「何や、なんでも緊急事態の時に、ある種のプダンが手元に現るちゅうなことをモノの本で読んだことがあるな」
「そやろ!やっぱりな、日本も同じやろ!」

ムスリム正月であるハリラヤに入った早々に、罪もないとは言いながら、嘘を言うことは憚られますが、そういう小説を読んだのは事実であり、日本でもベストセラーになったというその本の威光を借りることにして、気の引け目から少々訂正に及びます。

「んや、それは日本ではなくて、何や、何でもイギリスのどこかでの話のようや」
「そか!イングランドも歴史ある国やからな、インドネシアと似たようなことがあるんかの?」
「そうなんと、ちゃうか、でや、そんなクリスやったら、オイが何か尋ねても答えるやろか?」
「しやから、それは、アンタとおばさんのクリス次第やって。それに、妹のダンナみたいにアンタも、そのクリスをちょっと持ってみてもエエんやで?」
「じゃが、彼は持てなかったんやろ。オイがどうして持てるんや?」
「クリスはな、人の心を読めるんや。クリスがアンタを信用できれば、軽々持ち上がるんよ。クリスがアンタを好きでないと持ち上がらんちゅうだけのことやんか」
「ほ~か、で、何か尋ねるんなら、YESかNOで答えれる質問に、そのクリスはどう答えるんや」
「例えば、こや。オイのカミさんが家を出て行ったけど、戻るか戻るらないか?戻るんなら、右へ倒れよ」
「アンタのカミさん出て行ったんか?」
「例えばの話やんか!アイツはちゃんとまだおるって!」
「まだ、やな?」
「ともかくな、そないして聞いてやれば、クリスはちゃんと答えてくれるんや」
「なるほどな。けどや。言うたら悪いけど、そのクリスを持っている人が右や左に倒してるのとちゃうか、それって」
「んや、クリスを持つ必要はないんや。自分で置きよるからな」
「わからんな、何や?クリスが自分で箱から出てくるっちゅうのかいな?」
「そや!」

「(ちぇ)」せっかく「ハリポタ」の引用を決心したにも関わらず、やはり、付いていけてない自分の発想に舌打ちせざるを得ないものの、どうも、これがフツーに合って、フツーに話し合う会話なのかと、真顔で話し合う彼の顔をまじまじと見つめ返すのです。

「んじゃ、12月やぞ」
「あっ?あぁ!」

生半可な返事を返しながら、今日もまた、改めて熟考する機会が与えられた訳です。もしかして、オイは相当バカにされているのか?というネガティフな考えも湧いてくるものの、親しき仲にだけにしか発生しない会話もあり、これも、オイに対する心情の現れなのか?と感謝の念も同時にわき起こってくる訳です。

「12月か!」

あなたはこんなこと信じますか?確認のためにも、12月にクディリに行こうと考えますか?これでも、小さいながら法人を管理すべき代表たる身上なんですけどね

 

事件簿:水晶見

2004年頃だったと思う。我々は新年度の生産計画の打合せで、2階の会議室に集まり、各自の役割分担について話し合っていた。正午、大きな窓から「パン、パン、パン」と火薬が破裂したような乾いた音が飛び込んできた。

「ったく!ここは昼から花火もやりよるんか?!」

相も変わらず、Directorはとぼけたことを言った。
窓を開けて見ると、向かい側のタバコ工場の警備員が、視界を右から左の方向へ全力で走っているのが見えた。

「ほ~、走ってるヤンカ」

ここは熱い国である。そのためか、人々の歩く速度というのは、亀のそれほどとまでは言わないものの、かなりゆっくりしていると言える。サッカーゲームでもない限り、走っている人を見ることは滅多になかった。それほど、珍しいのである。
時を置かずして、目の前を二人乗りのオートバイがこれ以上は出せまいという初速加速で工業団地の裏手門の方へ走り去って行った。

そして、あちらこちらが騒がしくなっていった。二人組みの強盗が、銀行から運び込まれたイスラム正月ボーナスの現金を強奪したのであった。銀行の現金輸送車は、自動小銃を持った特別警備員をともなっていたものの、目的の会社に到達し、車から降りようとしたところを、頭を射貫かれた。他に、銀行員ひとりと、その会社の人事担当者ひとりが、やはり、きれいに一発ずつ首などに貫通銃創を受けて即死している。目撃者の話では、強盗のひとりは、約10mほど離れたところから発砲し、3発放って、三人を射殺したという。誰に言われるまでもなく、訓練されたものの仕業であり、銃の訓練を受けられるところと言えば、聞くまでもないことであった。

これは、噂話で聞いたことであるが、どうやら、この事件を担当している警察組織は、水晶見を利用し、犯人の居所を探索しているとのことであった。犯人が触れたその現金輸送車を、高名な水晶見に観察してもらい、どのあたりに潜行しているのか探っているのである。その真偽は確認できなかったが、それからほどなくして、犯人ふたりが逮捕されたことが新聞に掲載された。そして、そしてである。その数日後に、その犯人ふたりは病死した、と新聞は語っていた。

突如として逮捕され、突如として病死する。即死した三人の遺族と保険会社を除けば、こうして事件は解決されたとでも言いたげなレポートであった。ゴルゴ13を何度も読み返すのも、こういうことがあるからなのである。

その事件から、数年経った。相変わらず問題続きの工場にまた厄介な事件が発生した。従業員のひとりが携帯電話を盗まれたと言うのである。どうしてそんな高価なものを肌身はなさず所持していないのか?と疑問が湧いたが、工場での作業中は、おっかないDirectorがうろつき回るしで、ろくすっぽ携帯電話に集中することができないから、ロッカーに入れておいたのだと言う。なるほど、と思うのはここまでで、では、なぜロッカーに施錠しないのか?となると、面倒だから!と、どうも辻褄の合わぬ問答になり、「お前は正直なやっちゃ!」とお世辞を言いたくなるのである。

いずれにせよ、社内犯行であることは明らかであり、人事部に対して、メンツをかけてでも犯人を挙げないと、なめられること必至であることを言って聞かせた。人事担当のふたりは、Directorに煽られなくとも、やる気満々で、報告のあった日から3日間、社内の情報収集に目を見張るほどの執念を見せた。

その後、人事担当責任者が現れ、何やら、もどかしそうに尋ね始めた。
「Director! お願いがあるんですねんけど?」
「何や?犯人は分かったんか?」
「いえ~、実はその犯人捜しに必要なことで、お願いがあるんです」
「結局、まだ判っとらんのか。で、何や、その必要なことって?」
「マジックボールを使ってみようと思うてますねんけど、宜しいか?」

良くあることだが、インドネシア語に集中している時にいきなり英語が出てくると、一瞬思考停止状態になることがある。特に、日本語、英語、インドネシア語を同時に使う場面などで発生する。

「Directorは知りまへんか?マジックボールって?」
「…」
「あの~、サッカーボールより少し小さいガラスの玉があるんですヤンカ。ほいで…」
「ちょっと待ちいな!あの水晶玉のことを言っちょるんか?」
「そうそう、流石はDirector! 良く知ってますやん。その水晶玉ですヤンカ!」
「ホンマに信じとるんか?貴様は?」
「いや~100%信じれるか言うとそうでもないんですけんど、8割は行けるかなって。えへへ~」

後でわかることであるが、水晶見を推薦したのは、実は警備員なのであった。社内における警邏を担当する警備員は、この度の事件は、警備に対する正面からの挑戦と捉えており、何としても犯人を挙げると、人事担当者より、気合いを入れていたのである。その気合いが水晶見の推薦となって現れた訳である。

「ワイは結局は外国人だからの、ここでは。じゃが、いくらかかるんじゃ、それに?」

何かあると、なんやかんやでお小遣いを貯めようとする行為が発生し易いため、念のために確認した。

「2万ルピアくらいとちゃいますか?」
「2万ルピアか!ほんだら、やれ、やれ、やってみい!」

2万ルピアとは日本円で約250円くらいである。そう聞くとDirectorはむしろはやし立てる方に回った。

数時間後、夕刻になりつつある時刻になって、人事担当者が帰ってきた。判らんでもともとと思っていたこともあり、Directorは気軽に報告を受けることとなった。

「どやった?」
「判ったんですわ!Director! けど本人は今日はもう帰ってますから、明日朝さっそく直に問い質します!」
「ほぅか、が、どうなんや、その水晶見ちゅうのは?」

実は犯人よりも、その水晶見のことをもっと知りたいのである。

「いや~たまげました!アチキもこんなん簡単に判るんかと、不思議ですわぁ!携帯電話取られた子のロッカーが荒らされてましたヤンカ。ほんで、恐らくは犯人が触ったと思われるその子の私物を持って行ったんです。水晶見さんは、何や、ブツブツとつぶやきながら、おもむろに水晶に向かって、なんごとか、しゃべってはりました。ほんだら、しばらくすると、見える、見える、ちゅうやないですか」
「おぉ~そうか、ほんで、ほんで?」

Directorは、ほとんど真剣に集中しているのである。

「ほんだら、何でも曰く、『三人見える!』ちゅうんですわ!前に立っているのが、恐らく犯人で、人相はこれこれしかじかって。これって、ウチのふたりいるドライバーのひとりに間違いないと思います。もうひとりは、色が黒くて、いや、ここではみんな黒いんですけんど、ひときわ色黒で、どうもこれはこの犯人を毛嫌いしているヤツだそうで、人相からすると、すんません。言いにくいんですが、警備員のひとりのことを指してます。いやぁ、実際、仲悪いんですわぁ」
「ほんなことまで判るんか?!エライやっちゃの!ほんで、もうひとりはどうなんや?」
「そう、残りのひとりは良く判らんのですけんど、曰く、何ですか、色が白くて、目が小さくて、おっかない顔付きしてるっつうことですわ。どうやら土地のもんとはちゃうようです。ほんでも、どういう関わりがあるんか良く判らん、って言っとりました」
「そりゃ、オイのことやんか!オイはしとらんで!何でオイが従業員の携帯電話に関わらなアカンねん!」
「いやいや、水晶見がそう言ってますヤンカ。アチキもよう知りませんて」

翌日、人事と警備員が、ものものしくドライバーのひとりを召還して、小部屋でしばらく談義と相成った。時間はさほどかからなかった。彼は自白し、人事はこの事実から彼をクビにするという。自白が決定的なものであるため、Directorは余計なことを言う必要はなかった。そのドライバーは、最後の挨拶として、Directorに面会し、謝罪を入れた。Directorは言う言葉もなく、ただ社としてのプロセスを聞かせるのみであった。

事件は解決された。誰もがそう思っていた。だが、Directorだけは、数年前のことを思い返さざるを得なかった。

『突如として逮捕され、突如として病死する』

実損評価は桁違いであるし、一緒に論じられる対象ではないが、何かが、何かが少しだけ見えてきたような気がするのであった。釈然としないが思うのである。

「熱いのぉ。ホンマに熱い国や!」

ここは赤道直下の世界である。

 

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